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広島地方裁判所 昭和51年(ワ)1075号 判決 1980年10月21日

主文

一  被告大田洋史及び同谷口健三は各自

(一)  原告澤田輝男に対し金一、三九八万八、〇〇〇円及び内金一、二七八万八、〇〇〇円につき昭和四九年一月八日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員

(二)  原告澤田ハツエに対し金一〇〇万円、原告澤田眞知子及び同澤田美和子に対し各金五〇万円及び右各金員につき昭和四九年一月八日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員

を各支払え。

二  原告らの被告大田洋史及び同谷口健三に対するその余の請求を棄却する。

三  原告らの被告梶由介及び同株式会社バルコムヒロシマモータースに対する請求を棄却する。

四  原告らに生じた訴訟費用の四分の一と被告大田洋史に生じた訴訟費用を合算してこれを二分し、その一を原告らの、その余を同被告の各負担とし、原告らに生じた訴訟費用の四分の一と被告谷口健三に生じた訴訟費用を合算してこれを二分し、その一を原告らの、その余を同被告の各負担とし、原告らに生じたその余の訴訟費用と被告梶由介及び同株式会社バルコムヒロシマモータースに生じた訴訟費用は原告らの負担とする。

五  この判決は原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告らは各自原告澤田輝男に対し、金二、五三九万八、〇〇〇円及び内金二、三三九万八、〇〇〇円に対する昭和四九年一月八日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告らは各自原告澤田ハツエに対し、金三〇〇万円、同澤田真知子に対し金一五〇万円、同澤田美和子に対し金一五〇万円及び右各金員に対する昭和四九年一月八日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

原告澤田輝男は次の交通事故により受傷した。

1 日時 昭和四九年一月七日午前一〇時四〇分頃

2 場所 広島市中区大手町三丁目六―二三野村建設前路上

3 加害車

(1) 軽四輪貨物自動車

保有者被告谷口、運転者被告大田(以下「甲車」という。)

(2) 普通乗用自動車

保有者被告株式会社バルコムヒロシマモータース(以下「被告バルコム」という。)、運転者被告梶(以下「乙車」という。)

4 被害者 自転車

運転者原告(以下「原告自転車」という。)

5 事故の態様

事故現場付近を原告自転車が南進中、道路左側に停車していた甲車が突然右側ドアを開けたためこれに原告自転車が衝突し、そのはずみにより原告が道路中央付近に転倒したところを北進してきた乙車により轢過されたもの

(二)  責任原因

1 被告大田

被告大田は甲車を停止させ運転席右側ドアを開披するに際し右後方の安全確認義務を怠つて本件事故を発生させたから民法七〇九条の責任を負う。

2 被告谷口

被告谷口は甲車の保有者として自賠法三条の責任を負う。

3 被告梶

被告梶は乙車を運転中、甲車が自己の進路前方に停止し、原告自転車がその後方から対向してくるのを認めたのであるが、このような場合同被告としては原告自転車が甲車との接触を回避して通行するため道路中央線付近まで進出してくることは当然予想しうるところであり、本件も被告大田の安全確認を欠いた右側ドア開披という事情が加わつたとはいえ、原告自転車が道路中央付近まで進出したために乙車と衝突したのである。

従つて、被告梶はこのような経過による事故の発生をも予見し、道交法七〇条に定める道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で安全運転をしなければならない注意義務があるのにこの義務を怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから民法七〇九条の責任を負う。

4 被告バルコム

被告バルコムは乙車の保有者として自賠法三条の責任を負う。

(三)  傷害及び後遺障害の内容、程度

原告輝男は右事故により右側頭部挫創、右側頭骨々折、脳内出血等の傷害を受け、事故当日から昭和四九年三月六日まで二ケ月間県立広島病院に入院し、昭和四九年三月七日から昭和五〇年九月一八日まで同院に通院して昭和五〇年九月一八日症状固定として後遺障害三級に認定された。しかし、その後も術後肝炎等により同院に通院し、昭和五一年四月九日から同年八月三一日まで入院、その後現在に至るもなお同院等に通院している状態である。

(四)  身分関係

原告澤田ハツエは原告輝男の妻、同真知子、同美和子はいずれもその子である。

(五)  損害

原告らが本件事故により豪つた損害は次のとおりである。

1 原告輝男の損害

(1) 休業損害 金二五三万円

原告輝男の事故前三ケ月の平均収入日額一万〇、五六九円を基礎とし、後遺障害認定までの約二〇ケ月、六割の労災保険給付を控除して計算した金額

(10,569円×30日×20ケ月×0.4≒253万円(万円未満切捨))

(2) 逸失利益 金一、八三三万円

原告輝男が後遺障害の認定を受けた満五六歳から六七歳まで、五六歳の平均月収一七万七、九〇〇円を基礎にホフマン方式にて中間利息を控除して計算した金額

(17万7,900円×12ケ月×8.5901≒1,833万円(万円未満切捨))

(3) 入・通院中の慰藉料 金二〇〇万円

本件傷害のため約六ケ月入院、二〇ケ月以上の通院を余儀なくされておりこれを慰藉するには金二〇〇万円をもつて相当とする。

(4) 後遺障害に対する慰藉料 金七〇〇万円

後遺障害三級に対する慰藉料は右金額が相当である。

(5) 付添看護料 金一二〇万円

事故当日より後遺障害認定までの間約二〇ケ月付添看護を要したので、一日金二、〇〇〇円として計算した金額

(2,000円×30日×20ケ月=120万円)

(6) 将来の看護料 金九〇七万円

原告輝男の後遺障害によると終身看護を要するので、右認定の満五六歳から平均余命の約一八年間ホフマン方式により中間利息を控除して日額二、〇〇〇円にて計算した金額

(2,000円×30日×12ケ月×12.6032≒907万円(万円未満切捨))

(7) 入・退院中諸雑費等 金三四万八、〇〇〇円

イ 入院中諸雑費 金九万円

入院六ケ月、一日金五〇〇円として計算した額

ロ 通院中諸雑費 金一八万円

通院約二〇ケ月、一日金三〇〇円として計算した額

ハ タクシー代 金七万八、〇〇〇円

通院のためタクシー利用に要した費用

(8) 弁護士費用 金二〇〇万円

原告輝男は本件請求のため弁護士に依頼し、認容額の一割相当額の報酬を約したので、被告らに対しては金二〇〇万円を請求する。

(9) 損益相殺

原告輝男の前記(1)ないし(8)の損害合計額は金四、二四七万八、〇〇〇円となるところ、既に自賠責保険並びに被告らより合計金一、七〇八万円の支払を受けているので、これを控除すると残額は金二、五三九万八、〇〇〇円となる。

2 原告ハツエの損害

慰藉料 金三〇〇万円

原告ハツエは輝男の妻として、幸福な後半生が約束されていたところ、本件交通事故のため突如奈落の底に突き落され、今後は終身同人の看護に従事することとなるが、右は死亡にも比すべき重大傷害であり民法第七一一条により固有の慰藉料が認められるべきで、その金額は金三〇〇万円をもつて相当と思料する。

3 原告真知子、同美和子の損害

(1) 原告真知子慰藉料金一五〇万円

(2) 原告美和子慰藉料金一五〇万円

右両名は輝男の子として、恵まれた家庭に生育し、今後の輝かしい人生が約束されていたところ、突如父親が労働不能、看護を要する身となり、右同様の理由にて固有の慰藉料を請求し得べきところ、その金額は各金一五〇万円をもつて相当と思料する。

(六)  結論

以上の次第により、原告輝男は金二、五三九万八、〇〇〇円及びこれから弁護士費用を除いた金二、三三九万八、〇〇〇円に対する本件事故の翌日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告ハツエは金三〇〇万円及びこれに対する本件事故の翌日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告真知子、同美和子はそれぞれ金一五〇万円及びこれに対する本件事故の翌日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を被告らに対して請求する。

二  請求原因に対する答弁

(被告大田及び同谷口において)

(一) 請求原因(一)の事実は認。

(二) 請求原因(二)1、2の各事実は認。

(三) 請求原因(三)の事実は不知。

(四) 請求原因(四)の事実は認。

(五) 請求原因(五)の事実は不知。

(被告梶及び同バルコムにおいて)

(一) 請求原因(一)1、2、3、4の各事実は認、同(一)5の事実は争う。

(二) 請求原因(二)3の事実は否認、同(二)4の事実は認。

(三) 請求原因(三)の事実は不知。

(四) 請求原因(四)の事実は不知。

(五) 請求原因(五)1(1)ないし(8)の各事実は不知、同(五)1(9)の事実(損益相殺額)は認。同(五)2、3の各事実は不知。

三  抗弁

(一)(被告大田及び同谷口において)

被告大田運転の甲車は本件事故現場において道路左端から約一・二メートルの間隔をおいて停車しており、自転車を運転する原告輝男としては甲車と道路左端との間を通過しうる十分な間隔があつたのであるから、危険な道路中央寄りである甲車の右側を通過することを避け、安全な道路左側を通過すべきであつた。

しかるに、原告は道路右側を通過したから、本件事故発生については原告にも過失があるので、過失相殺されるべきである。

(二)(被告バルコムにおいて)

1 被告梶は乙車を運転し甲車の右側方を離合しようとしたのであるが、乙車と甲車の間隔は約一・七一メートルあつたから仮に乙車が甲車と離合する際、両車の間を原告自転車が通過するとしても、原告自転車は安全に通過しうる間隔が存在する。この場合において、甲車が突然運転席右側ドアを開披し、これと原告自転車が衝突して原告輝男が乙車の進路前方に飛び込んできて乙車の進路を妨害することは到底被告梶の予測しうるところではなく、また右の衝突を発見してからは直ちに急制動をかけており本件事故は被告梶にとつては不可抗力である。このことは本件事故に関し被告梶が不起訴処分となりまた行政処分も受けていないことからも明らかである。

2 右の如く本件事故について被告梶には過失がなく、本件事故は被告大田及び原告輝男の過失によつて発生したものであるうえ、乙車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたから、被告バルコムには自賠法三条但書の免責事由が存在する。

四  抗弁に対する認否

抗弁(一)、(二)の事実は争う。

甲車の左側には他の車両が駐車していたから、原告自転車が道路左端と甲車の間を通過することは不可能であり、原告には自転車の運転速度やその他の運転方法の点でも何ら過失はない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因(一)1、2、3、4、5の各事実(但し、同(一)5の事実は原告らと被告大田及び同谷口との関係において)は当事者間に争いがない。

二  本件事故の態様等(請求原因(一)5、(二)3、抗弁(一)、(二)について。但し、請求原因(一)5は原告らと被告梶及び同バルコムとの関係において判断する。)

(一)  成立につき当事者間に争いのない乙第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第五号証、丙第一号証及び被告大田、同梶の各本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。

1  被告大田は甲車を運転して前記事故現場付近へ向けて南進し、商品を配達するため<1>点(別紙図面上、以下地点はすべて別紙図面上の表示である。)に停止した。同被告が右の如く道路左端から少し間隔をあけ道路中央寄りに停止したのは甲車の左前方に車両が一台駐車していたためである。

2  被告大田は停止後直ちに運転席右側ドアを三〇センチ位開披した瞬間点で同ドアの先端が右後方から進行してきた原告自転車の右ハンドル部分に衝突し、原告輝男は自転車とともに甲車の右斜前方に転倒したが、その時南方から進行してきた乙車が点で原告輝男と衝突し、同原告は<ロ>点に、原告自転車は<ハ>点にはねとばされ乙車は点に停止した。

3  被告大田は運転席右側ドアを開披する際右後方の安全を全く確認せず、原告自転車と衝突するまで原告自転車の存在に気づかなかつた。

4  原告輝男は本件事故に関し全く記憶がないが、甲車の左前方に駐車車両が存在し甲車の左側を通行できなかつたため甲車の右側を通行しようとしたものと解される。

5  被告梶は時速約三〇キロメートル(制限速度は時速四〇キロメートル)で乙車を運転し北進して事故現場付近へ差し掛り、点で<イ>点を進行してくる原告自転車を発見し、その際原告自転車は<1>点に停止した甲車の右側を通過して乙車と離合するものと判断していた。

ところが、乙車が点に到達した時点において原告自転車が甲車の運転席右側ドアに衝突し、原告自転車が乙車の進路前方に進出してくるのを発見し、直ちに急ブレーキをかけたが及ばず、点から七・七メートル進行した点で停止したが及ばず点で原告輝男に衝突し、同原告を<ロ>点にはねとばした。(なお、乙車が停止した位置である点は乙車の運転席の位置であるから、別紙図面表示のとおり、乙車が停止した時乙車の先端は点より進行しているわけである。)

6  乙車の左側には駐車車両が七ないし八台存在したので、被告梶としては原告輝男との衝突を回避するため左へ転把することはできなかつた。

(二)  被告大田本人尋問中右(一)1、4認定に反する部分は信用することができず、外にも右(一)認定を覆えすに足る証拠はない。

(三)  考察

右(一)認定の事実を基礎として考察する。

1  請求原因(一)5(本件事故の態様)につき

本件事故の態様は右(一)認定のとおりである。

2  請求原因(二)3(被告梶の過失)につき

(1) 先ず、被告梶が点で<イ>点の原告自転車を発見したとき直ちに徐行すべきであつたか否か検討することとする。

イ 被告梶が<イ>点に原告自転車を発見したときその右側(被告梶の方から見て)の甲車は既に停止しており、甲車と乙車が離合する時の間隔は約一・五メートルあつたのであるから、仮に、甲、乙両車が離合する時その間を原告自転車が通過するものとしても、甲車が停止していることを考慮にいれると、原告自転車には安全に通過しうる間隔が保持されていたというべきであること

ロ 被告梶が原告自転車を発見したとき原告輝男が前方をよくみていないとかふらふら進行している等その運転態度方法になんらかの危険な点があつたものとは認め難いこと

ハ 被告梶は自動車運転者である被告大田が後方の安全の確認もせずに突如ドアを開披するという重大な過失行為をすることはないものと信頼して運転してよいものというべきであるから、原告輝男が点において甲車のドアに衝突して自己の進路前方に進出してくることを点において予見することは不可能であつたこと

等の事情からすると、被告梶には点において、原告自転車を<イ>点に発見したとき直ちに停止しうる速度に減速徐行すべき注意義務はなかつたものというべきである。

(2) しかして、被告梶は点において原告自転車が点で甲車の右ドアと衝突して自己の進路前方に進出してくるのを認めたとき直ちに急ブレーキをかけたが事故を回避しえなかつた。

(3) 右によると、被告梶には本件事故についての予見可能性と回避可能性がなく、従つて、本件事故について過失はないものというべきである。

3  抗弁(一)(原告輝男の過失)につき

(1) 道交法一八条一項は「軽車両(自転車もこれに含まれる。)は道路の左側端に寄つて道路を通行しなければならないが、道路の状況その他の事情によりやむを得ないときはこの限りでない。」旨の規定をしている。

原告輝男は甲車の左前方にも駐車車両が存在し、左側端に寄つて通行することが困難であつたため、道路中央寄りを通行したものと解されるから、これは右のやむを得ないときに該当するものというべきであり、従つて、原告輝男の通行方法には自転車の通行方法を定めた道交法の右条項に適合していたものというべきである。

(2) 原告輝男としては自動車運転者である被告大田が原告自転車の進路直前で突然甲車の運転席右側ドアを開披する(この点は被告大田が右ドアを開披した瞬間原告自転車に衝突したことから裏付けられる。)というような不注意な行動をすることはないものと信頼して走行すれば足りるから、事前に右事態を予見して甲車の右側ドアとの衝突を回避することは不可能であつたというべきであり、従つて、原告輝男には甲車の右側ドアと衝突したことについては、過失はないものというべきである。

(3) 原告輝男が甲車と衝突後被告梶の進路前方に進出したことは回避不能のことである。

(4) そうすると、原告輝男が甲車の右側ドアに衝突して乙車の進路前方に進出して乙車と衝突することは予見不能であり、また回避不能のことであるから、原告輝男には本件事故の発生について過失はないものというべきである。

従つて、抗弁(一)は失当である。

4  抗弁(二)(被告バルコムの免責)につき

乙車の運転者である被告梶には前記のとおり過失がなく、又同車の保有者である被告バルコム自身にも乙車の運行に関しとるべき措置に欠ける点はなかつたと解されること、本件事故は甲車の運転者である被告大田の過失によつて生じたものであること、乙車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたと解されること等からすると、被告バルコムには自賠法三条の免責事由が存在するというべきである。

そうすると抗弁(二)は正当である。

三  請求原因(二)1 2 4の各事実は当事者間に争いがない。

四  傷害及び後遺障害の内容、程度

成立につき当事者間に争いのない甲第一〇号証、第一三ないし第一六号証及び原告輝男及び同ハツエの各本人尋問の結果によると請求原因(三)の事実の外、後遺障害の傷病名は急性硬膜外血腫、脳挫創(小脳)、術後肝障害であり、その程度、内容は、日常生活において身の廻りのことは出来るが小脳失調のために外出は危険であり、動作性IQが著しく劣り、人格的には情緒面の細やかさに欠け、攻撃的傾向が示され、社会成熟度の低い人格が示唆される等の精神的欠陥がみられ、小脳失調に基く平衡障害、知能低下等により生涯一切の就労が不可能、慢性肝炎は肝硬変に移行する可能性あり、とされていること、これを日常生活の面から観察すると、歩行困難、言葉がもつれる、着替え、トイレは一人でできるが、食事は一人ではこぼしてしまうので妻が付添わなければならない等の生活上の不便さがある等の事実を認めることができる。

五  身分関係

被告ハツエ本人尋問の結果によると、請求原因(四)の事実を認めることができる。

六  損害

(一)  原告輝男の損害

1  休業損害 金一九九万円

証人後藤邦彦の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一七ないし第一九号証、原告輝男、同ハツエの各本人尋問の結果によると、原告輝男は昭和一一年七月住友海上火災保険株式会社に入社し、昭和四九年三月末日同社広島支店調査役補(営業担当)で停年退職となり同年四月一日から昭和五四年一二月末日までに同社特別嘱託の地位にあつたこと、原告輝男は昭和四九年一月七日の本件事故後全く就労していないが、同社は同原告に対し正式職員ならびに特別嘱託としての給料を支払つていること(但し、昭和五〇年九月一八日の症状固定までは労災保険からその六割が給付されるので、同社が負担するのはその四割である。)、しかし、同社は同原告が就労しないのであるから本来給料支払義務はなく、従つて、名目は給料であるが実質は貸付金であり同社として本件訴訟事件が解決した後同原告に対し返還請求をする意思を有すること、それゆえ、同原告が同社から支給された給料(但し、四割相当分)は同原告の休業損害となることが認められる。

(1) 昭和四九年一月七日以降同年三月三一日に至るまでの分

右期間の一日当りの給料は金一万〇、五六九円、日数は八四日、会社が負担したのは四割であるから次のとおりとなる。

(10,569円×0.4×84=355,118円)

(2) 昭和四九年四月一日以降昭和五〇年九月一八日に至るまでの分

嘱託になつてからの給料(但し、四割相当分)は月九万二、〇〇〇円、右期間の日数は五三六日であるから次のとおりとなる。

(92,000円×536日÷30=1,643,733円)

(3) 右によると昭和四九年一月七日以降昭和五〇年九月一八日に至るまでの休業損害は金一九九万円(万円未満切捨)となる。

((1)+(2)=1,998,851円)

2  逸失利益 金一、八三三万円

証人後藤邦彦の証言、原告輝男及び同ハツエの各本人尋問の結果及び経験則によると、原告は大正八年一月三日生まれで、昭和四九年三月末日住友海上火災保険株式会社を停年退職したが、以前から停年退職後同社の保険代理店を開設経営する計画をたてていたこと、その場合同原告の知識経験等からすると、少なくとも月一八万円程度の収入は得られるものと解されること、同原告は身体健康な男子であり六七歳に至るまで右営業に従事しうるものと解されること、一一年に対応するホフマン係数は八・五九〇一であること等の事実を認めることができ、これによると、請求原因(五)1(2)の事実を認めることができる。

3  入、通院中の慰謝料 金二〇〇万円

これまで認定の事実を基礎として考察すると、請求原因(五)1(3)の事実を認めることができる。

4  後遺障害に対する慰謝料 金七〇〇万円

これまで認定の事実を基礎として考察すると、請求原因(五)1(4)の事実を認めることができる。

5  付添看護料 金二〇万円

前記甲第一五号証によると、原告輝男は本件事故により昭和四九年一月七日以降同年三月六日まで五九日間県立広島病院に入院し、昭和四九年三月七日以降昭和五〇年九月一八日症状固定に至るまで五六一日間(実日数八二日)通院し、この間付添看護を要したことが認められる。

しかして、症状固定までの入院付添看護料を一日当り金二、〇〇〇円、通院付添看護料を一日当り金一、〇〇〇円として計算すると、次のとおりとなる。(なお、症状固定前の在宅療養における付添看護は原告らの慰謝料において斟酌するものとする。)

(2,000円×59日+1,000円×82日=200,000)

6  将来の看護料 なし

原告輝男は着替、トイレ等身辺の諸事は独力でなしうるのであるから、同原告が重度の身体障害者であるため同原告の身辺に家人が注意を怠ることができないとはいえ、将来はたしてどの程度の付添看護費を要するものかは明らかではないといわざるをえない。

7  入、通院中諸雑費等 金三四万八、〇〇〇円

これまで認定の事実及び経験則を基礎として考察すると、請求原因(五)1(7)の事実を認めることができる。

8  損益相殺 金一、七〇八万円

原告輝男が自賠責保険並びに被告らから合計金一、七〇八万円の支払を受けていることは同原告の自認するところであるから、右金額を1ないし7の合計額金二、九八六万八、〇〇〇円から控除すると残額は金一、二七八万八、〇〇〇円となる。

9  弁護士費用 金一二〇万円

原告輝男が本件事故と相当因果関係にあるものとして被告らに対し賠償を請求しうる弁護士費用は8の損益相殺後の金額の約一割相当額である金一二〇万円と解するのが相当である。

10  以上によると、原告輝男の未填補損害額は金一、三九八万八、〇〇〇円であり、このうち弁護士費用以外の分が一、二七八万八、〇〇〇円である。

(二)  原告ハツエ、同真知子及び同美和子の損害

1  第三者の不法行為によつて身体を害された者の配偶者及び子はそのために被害者が生命を害された場合にも比肩すべき、又は、右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたときに限り、自己の権利として慰謝料を請求できるものと解するのが相当である。

2  原告輝男及び同ハツエ本人尋問の結果によると、右三名の原告らはその夫であり父である健康に恵まれた原告輝男とともに平穏で幸福な家庭を形成してきたところ、原告輝男が突然前記の如き重傷を蒙つて結局は重度の身体障害者となり、このため家庭の運営も円滑ではなくなつたこと、右三名の原告らは原告輝男が一ケ月も人事不省となつたため絶望的になり、またその治療期間中は原告輝男の看護付添に専念せざるをえなかつたこと、原告輝男が停年退職後保険代理店を経営したときには安定した余裕のある生活を期待しえたのに無惨にもこの夢が打ちこわされ、またこれに伴い原告真知子らの縁談にも支障が生じたこと等の事実が認められ、これによると右三名の原告らは本件事故により多大の精神的苦痛を蒙つたことが認められる。

3  右2の事情及び前記四認定の原告輝男の後遺障害の内容、程度とりわけ身体健康で前途に希望をもち社会的な活躍を期待しえた夫ないし父が精神面、身体面の双方にわたつて重度の障害者となり、なお現在も不治の病(慢性肝炎)に罹患し、生涯就労が不可能であつて、概ね目をはなせない状況になつたことは妻ないし子にとつて、原告輝男が死亡した場合に比し著しく劣らない程度の精神的苦痛を蒙つた場合に該当するものというべきである。

4  しかして、右三名の原告が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛は次のとおりと解される。

原告ハツエ 金一〇〇万円

原告真知子 金五〇万円

原告美和子 金五〇万円

七  結論

以上によると、次のとおりとなる。

(一)  被告大田及び同谷口は各自

1  原告輝男に対し、金一、三九八万八、〇〇〇円及び内金一、二七八万八、〇〇〇円につき本件事故発生の日の翌日である昭和四九年一月八日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

2  原告ハツエに対し、金一〇〇万円、原告真知子及び同美和子に対し各金五〇万円及び右各金員につき本件事故発生の日の翌日である昭和四九年一月八日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払義務を負う。

(二)  被告梶及び同バルコムは原告らに対し損害賠償義務を負わない。

(三)  よつて、原告らの被告大田及び同谷口に対する請求は、右(一)の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、被告梶及び同バルコムに対する請求は全部失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦宏一)

別紙図面 現場見取図

<省略>